「行方不明?」
「ええ。部屋から出た所は確認されていません。何者かを招くように一度だけドアを開けていますが、またすぐ閉めています。窓にも鍵が掛かっていました」
「招く? どういう意味だ。ブレードは誰を部屋に入れたって?」
「いえ…誰も映っていません。それから数時間経って、バレルさんの指示でお呼びした時には、もう」
「わかった。下がれ」
「はい」
「まさか…なあ…」
頭を過ったのは、数日前に命を落とした彼の恋人の顔。
有り得ない考えを打ち消すように僅かにかぶりを降った直後。バレルの目の前に鎮座するディスプレイの淡い光の中に、文字の羅列が浮かび上がる。
思わず腰を浮かせて画面を覗き込むと、その一文は、紛うことなく彼の見知った人物のものだった。
「…おいおい」
これが死者の挨拶だろうか。
遺されるのはいやだとブレードが駄々をこねたので、気が引けますがいただいていきます。
勝手なことをしてごめんなさい。必ず幸せにします。
たまには顔を出します。
「…困るだろ、来ても。俺達が。
それにしても…この場合祝儀とかどこにどう送りゃいいんだ。書いとけよ、気の利かねえ奴らだな」
真顔で的の外れた呟きを漏らしながら、しかしバレルは妙に納得がいってしまった。
「仲、良かったからなァ…あいつら」
とりあえず、暗闇から現れるものがいても出来る限り驚かないように、団員たちに言い含めておくとしよう。
「おい、聞いてるか。…人手の足りねえ時期だが、許してやるよ。馬鹿野郎。
幸せになりやがれ」